第29回:保険業界は本当に変われるのか

『週刊東洋経済』に「保険の正体」という特集が組まれ、生命保険、損害保険、保険代理店など、保険業界の関係者による覆面座談会が掲載されており、近年相次いでいる不祥事や、金融庁による規制強化、保険会社と代理店の関係などについて、踏み込んだ内容が取り上げられました。私自身も保険代理店に身を置いて仕事をしているため、改めて仕事の在り方を考えさせられました。
改めて感じたのは、今の保険業界で問われていることは、結局「誰のために保険を販売しているのか」という、とてもシンプルな話なのではないかと思っています。
保険は信頼がすべて
保険は、契約した瞬間に価値を実感することができる商品ではありません。生命保険であれば、人が亡くなったときや病気になったとき、あるいは何十年後かに退職を迎えたときに、初めて大きな価値を発揮することがあります。だからこそ、顧客は契約時に「この会社なら大丈夫だろう」「この担当者なら信頼できるだろう」という気持ちで契約しているのではないかと思います。
保険という商品は、金融商品の中でも特に「信頼」の上に成り立っているものだと思います。それだけに、情報漏えいや不適切な販売、代理店への過度な便宜供与などの問題が起きれば、その影響は一社だけにとどまらず、業界全体への不信感につながってしまいます。
「どの商品が売りやすいか」ではなく「どの商品が必要か」
保険会社から代理店への便宜供与の問題も近年大きな問題になっています。代理店にとって保険会社は重要な取引先ですし、保険会社にとっても代理店は自社商品を販売してもらう大切なパートナーです。ただ、その関係が強くなりすぎると、「どの商品が顧客にとって一番良いのか」ではなく、「どの商品を売ると代理店にとってメリットが大きいのか」という判断が入り込む余地が出てきます。本来、代理店の商品選びはもっとシンプルであるべきで、その顧客、その会社に最も適している商品を選ぶ。それだけではないかなと思います。
手数料の高い商品と手数料の低い商品
保険代理店は、保険契約が成立すると保険会社から手数料を受け取ります。そして、商品によってその手数料が異なることがあります。例えば、Aという商品を販売すれば代理店に100万円の手数料が入り、Bという商品なら50万円しか入らない。それでも、その顧客にとってBの方が適しているのであれば、Bを提案できるか。私は、そこに代理店としての姿勢が表れると思っています。もちろん、手数料が高い商品が悪いわけではありません。保障内容や商品の特性を考えた結果、その商品が顧客に最も適しているのであれば、何の問題もありません。重要なのは、「なぜこの商品を提案するのかを、きちんと説明できるか」ということです。

顧客本位とは、言われた通りにすることではない
金融業界では「顧客本位の業務運営」という言葉がよく使われます。誰も反対しない言葉ですが、実際にこれを貫くのは簡単ではありません。顧客が「保険料が安い商品がいい」と言っていても、必要な保障が足りなければ、そのことを説明しなければなりません。法人のお客様から「節税になる保険に入りたい」と言われても、会社の財務状況を見たうえで適していないのであれば、「今は入らない方がよい」と伝える必要があります。顧客の希望をそのまま受け入れることが、必ずしも顧客本位ではありません。目の前の要望だけではなく、その人や会社の将来まで考えて提案することが、本当の意味での顧客本位なのだと思います。
保険代理店の価値はどこにあるのか
保険商品そのものの情報は、以前より簡単に手に入るようになりました。だからこそ、これからの保険代理店には、単に商品を紹介するだけではない価値が求められると思っています。
特に法人保険の場合、会社の財務、事業承継、役員退職金、従業員福利厚生、相続など、さまざまな問題が関係します。同じ商品でも、会社によって必要性はまったく違います。会社の状況を理解し、課題を整理したうえで、その会社に本当に必要なものを考える。そして、必要でなければ「今は保険に入らなくてもよい」と言える。そこまで含めて、保険代理店の仕事だと思っています。
最後に
様々な問題が明るみに出たことで、保険業界は大きな転換期にあるとを感じています。これまで当たり前とされてきた商慣行が見直され、保険会社と代理店の関係も変わり、販売のあり方もより厳しく問われるようになっています。ただ、どれだけ規制が増えても、最後に商品を提案するのは人です。そして、その商品を信じて契約するのも人です。だからこそ、最も大切なのは「売れる商品を売る」のではなく、「その人、その会社に本当に必要なものを提案する」ということだと思います。
保険業界への信頼を取り戻すために必要なのは、一件一件、正しい提案を積み重ねていくことだと思っています。
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