第30回:非上場株の相続評価が大きく変わる可能性―事業承継への影響をどう考えるか

本日の日本経済新聞において、非上場株式の相続税評価について国税庁が新たな評価ルール案をまとめたという記事が掲載されています。記事によると、現在使われている類似業種比準方式などを見直し、企業の簿価純資産と利益を基準に評価額を算定する方式へ一本化する方向で検討が進められているとのことです。2027年度の税制改正大綱への反映を目指し、2028年1月以降に発生する相続からの適用が想定されており、実現すれば非上場株式の評価方法としては1964年以来の大きな見直しになりそうです。

非上場株の評価方法が大きく変わる可能性

非上場会社の株式には、上場株のように市場で売買される価格がありません。そのため現在は、会社の規模や業種などに応じて、類似する上場企業の株価を参考にする方法や、会社の純資産を基準にする方法などを使い分けて評価しています。

一方で、近年は複数の評価方法を組み合わせることで、会社の実態と比べて株価を大きく引き下げるようなケースも問題視されてきました。今回の見直しでは、こうした評価額のばらつきを抑え、会社そのものの財務内容や収益力をより直接的に評価へ反映させようという方向性が示されています。

新しい案では、企業の直前期末の簿価純資産に加え、今後5年間で見込まれる収益力を考慮して評価額を算定するとされています。利益については、過去5年間の平均額などを使って計算し、赤字の場合も含めて反映する方向です。つまり、これまで以上に「会社にどれだけ資産が残っているか」「継続的にどれだけ利益を生み出しているか」が、株式の評価額に影響しやすくなる可能性があります。

財務内容の良い会社ほど影響を受ける可能性

記事の中で紹介されていた試算を見ると、会社によって影響はかなり異なります。従業員90人規模で平均利益が3億円を超え、簿価純資産30億円の製造販売会社では、株式評価額が約17億円から約21億円に上昇し、相続税額も増加する結果となっています。

また、売上高17億円、平均利益3,000万円程度の工事会社では、株式評価額が約3倍となり、相続税額も大きく増える試算が紹介されています。この工事会社については、利益水準だけではなく、簿価純資産が5億円あることが評価額を押し上げている点が印象的です。

長年堅実に経営し、借入金を返済しながら利益を社内に残してきた会社ほど、貸借対照表上の純資産は厚くなっていきます。現預金や不動産を保有し、内部留保を積み上げ、財務内容を改善してきた結果として自社株の評価額が上がり、次世代へ引き継ぐ際の税負担が重くなる。非上場会社の事業承継では以前から見られる問題ですが、今回の新しい評価方法が導入されれば、純資産の厚い会社ではその影響がより強く出る可能性があります。

小規模企業では評価額が下がるケースも

今回の見直しによって、すべての会社の税負担が増えるわけではありません。記事では、従業員10人未満、売上高1億円程度の小規模な塗装会社について、新しいルールでは評価額が1割ほど下がり、相続税額も減少するという試算が紹介されています。

収益力が高くなく、純資産もそれほど大きくない会社では、現在よりも評価額が下がる場合があるということです。今回の見直しは単純な増税というよりも、会社の純資産や利益をこれまで以上に直接評価へ反映する制度変更と考えた方が実態に近いと思います。

そのため、自社にとって有利なのか不利なのかは、会社の規模だけでは判断できません。売上高が大きくなくても純資産が厚ければ評価額が上がる可能性がありますし、逆に規模が小さく収益力も高くなければ、評価額が下がる可能性もあります。

事業承継は早い段階から考えておく必要がある

非上場会社の場合、代表者が保有する株式の価値は、会社が成長するほど上昇していきます。利益を積み上げ、純資産が増え、会社が強くなればなるほど、株式を次の世代へ移す際の負担も大きくなる可能性があります。

株価が十分に上がった後になってから、慌てて後継者へ株式を移そうとしても、贈与税や相続税の負担が重く、取り得る方法が限られてしまうことがあります。そのため、まず自社株が現在どの程度の評価額になっているのかを把握し、そのうえで、いつ、誰に、どの程度の株式を移すのかを考える必要があります。

会社によっては、まだ株価がそれほど高くない段階から一部ずつ移転する方がよい場合もありますし、事業承継税制の活用を検討した方がよい場合もあります。また、株式の移転だけではなく、相続税が発生した際に備えて納税資金を準備しておくことも必要です。会社の財務状況、株主構成、後継者の有無によって、事業承継の進め方は大きく変わります。

株価を下げることだけが事業承継対策ではない

相続税対策というと、「どうすれば自社株の評価額を下げられるか」という話に偏りがちです。しかし、実際の事業承継では株価だけを見ていても十分ではありません。

仮に評価額を抑えることができたとしても、株式が複数の相続人に分散してしまえば、将来の経営判断に影響が出る可能性があります。また、後継者が株式を取得できても、納税資金が不足していれば、会社の資金や個人資産を大きく取り崩すことになるかもしれません。

誰に経営権を集中させるのか、他の相続人にはどのような財産を残すのか、税金をどの資金から支払うのか、会社の資金繰りにどの程度影響が出るのか。こうした点まで一緒に考えて初めて、現実的な事業承継の計画になります。

今のうちに自社の状況を確認しておく

現時点では、今回報じられた新ルールはまだ案の段階です。今後の有識者会議や税制改正の議論によって、計算方法や適用時期が変更される可能性もあります。そのため、この報道だけを見て慌てて株式を移す必要はありません。

ただ、制度が変わる可能性がある以上、自社株の状況を何も把握していないままにしておくのも得策ではないと思います。自社の純資産はいくらあるのか、過去5年間でどの程度の利益を出しているのか、現在の株式評価額はいくらなのか、後継者は誰なのか、相続が発生した場合に納税資金を確保できるのか。こうした点を整理しておけば、制度の内容が固まったときにも対応しやすくなります。

今回の非上場株式の評価方法の見直しは、特に長年利益を積み上げ、財務内容の良い会社にとって注目しておくべきテーマだと思います。一方で、小規模な会社では評価額が下がる可能性もあり、影響は会社ごとに異なります。

最後に

事業承継は、単に会社を誰に引き継ぐかを決めれば終わる話ではありません。株式をどのように移すのか、その際にどの程度の税負担が発生するのか、納税資金をどう準備するのか、そして次の世代が安定して経営を続けられる状態をどうつくるのかまで含めて考える必要があります。

今回の制度見直しが今後どのような形で決まるのかは、引き続き確認する必要があります。ただ、事業承継を検討している会社にとっては、自社株の評価や株主構成、承継のスケジュールを改めて確認する機会になるのではないかと思います。

ヒルズ&パートナーズ株式会社

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岡村雄太

Author Profile

岡村 雄太

ヒルズ&パートナーズ株式会社 取締役

野村證券株式会社にてリテール営業を経験した後、M&A・ファイナンス提案といった案件を手掛ける投資銀行部門へ異動。2023年からは現職として、法人保険、事業承継、資産形成などを中心に、経営者・法人のお客様向けの支援を行っています。

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