第28回:福利厚生は、余裕のある会社だけが整えるものではない
経営者のお客様とお話ししていると、ここ数年で明らかに増えているのが、人手不足に関するご相談です。経営上のご相談というと、売上をどう伸ばすか、資金繰りをどう改善するか、設備投資をどのタイミングで行うかといった内容が中心でしたが、今は「人が採れない」「採用しても定着しない」「これから先、会社を支えてくれる人材が足りない」という話を聞くことがとても多くなりました。特に建設業のお客様からは、「仕事はあるのに、人がいないため受けきれない」という話を多く聞きます。
取引先から受注しても、現場を任せられる従業員がいなければ断らざるを得ません。会社としての信用があり、仕事の依頼もあるにもかかわらず、人手不足が成長の足かせになっている会社が多いのが実情です。いかに働く人を確保し、その人たちに長く活躍してもらうかが重要になっているものと考えています。
経営者と人材の話になると、多く聞かれるのが給与や賞与の考え方についてお話が及ぶケースが多いです。
「給与をもう少し上げた方がよいのではないか」
「他社より条件が悪いから、採用できないのではないか」
「若い人に来てもらうには、初任給を上げなければならない」
物価上昇も続くなかにおいて賃金の見直し重要であり、周辺企業と比べて給与水準が明らかに低ければ、採用で苦戦するのも当然です。しかし一方で、一度従業員の給与を上げるとそう簡単に元に戻すことはできないため、将来にわたって支払い続けられるかまで考えなければならない、重い決断になります。だからこそ、中小企業が人材を採用し、定着させていくためには、給与以外の部分も含めて、会社としての魅力をつくっていく必要があります。
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従業員は給与だけを見ているわけではない
福利厚生という言葉を聞くと、会社が従業員に提供する付加的なサービスを思い浮かべる方も多いと思います。社員旅行、食事補助、健康診断、宿泊施設やレジャー施設の割引など、一般に福利厚生と呼ばれる制度にはさまざまなものがあります。こうした制度も、従業員の満足度を高めるうえで意味があります。
ただ、私がお客様と福利厚生について話す際に、より重要だと感じるのは、従業員が長く安心して働くための基盤となる制度です。例えば、退職金があるのか。従業員に万一のことがあった場合、その家族に対して会社として何ができるのか。病気やケガによって長期間働けなくなった際に、何らかの支援があるのか。長く勤めた従業員に対して、会社がどのように報いるのか。
若い従業員であれば、入社時点ではそれほど意識していないこともあります。実際、採用面接の場で退職金や死亡退職金について細かく質問する人は、多くないかもしれません。しかし、年齢を重ね、結婚し、子どもが生まれ、住宅を購入するなど、生活環境が変わっていくにつれて、働く人が会社に求めるものも変わっていきます。若い頃は、目の前の給与や仕事の内容を重視していた人も、家庭を持てば、「この会社で長く働いて大丈夫だろうか」「もし自分に何かあったとき、家族はどうなるのだろうか」「定年や退職を迎えたとき、どの程度の準備があるのだろうか」と考えるようになります。
そのとき、会社に退職金制度や従業員保障の仕組みがあるかどうかは、決して小さな違いではありません。
お客様からよく聞く「何かあったとき」の不安
福利厚生の必要性を強く感じるのは、採用や人材定着の話をしているときだけではありません。お客様から、従業員に万一のことがあった場合について相談を受けることもあります。
「従業員が在職中に亡くなった場合、会社として家族に何をしてあげればよいのか」
「死亡退職金というものを用意した方がよいのか」
「長年働いてくれた社員が大きな病気になったとき、何もできないのは避けたい」
「もし退職者が同じ時期に重なったら、退職金を支払えるのか不安だ」
実際、多くの中小企業では、代表者と従業員との距離が近く、単なる雇用関係を超えたつながりがあります。長年一緒に働いてきた従業員であれば、その家族のことまで知っていることもあります。そのため、従業員に何かあったときには、「会社としてできる限りのことをしてあげたい」と考えるのが自然です。
しかし、その気持ちと、実際に会社として支払える金額は別の問題であり、仮に従業員が亡くなり、遺族にまとまった金額を渡したいと思っても、そのための財源が準備されていなければ、会社の預金から支払うことになります。
経営者としては家族を支援したい。しかし、会社の経営と残された従業員も守らなければならない。だからこそ、何も起きていない平時の段階で、会社としてどのように対応するのかを考えておく必要があります。
制度がなければ、その都度の判断になってしまう
福利厚生制度が整っていない会社では、従業員に何かが起きた際の対応が、代表者個人の判断に委ねられます。例えば、長く勤めた従業員には多く支給し、入社して間もない従業員には少なくする。家族がいる人と、独身の人で金額を変える。会社への貢献度や役職を考慮する。それぞれの事情を考えれば、個別に判断したいという気持ちは理解できます。
しかし、その都度、代表者の感覚で金額や対象を決めていると、後になって社内で不公平感が生まれることがあります。
「あの人のときには会社から支給されたのに、なぜ今回はないのか」
「支給金額は何を基準に決めたのか」
「役職者だけが優遇されているのではないか」
従業員や家族を助けるために行った支援が、基準が不明確であるために、別の従業員から不公平だと受け取られる可能性があります。もちろん、すべての従業員にまったく同じ対応をしなければならないという意味ではありません。勤続年数や役職、給与水準など、合理的な基準によって支給金額に差を設けることは考えられます。重要なのは、その基準が事前に定められ、会社の制度として説明できる状態になっていることです。
制度はつくるだけでは十分ではない
福利厚生制度を整えることができても、その内容を従業員が知らなければ、採用や定着に十分な効果は生まれません。実際にお客様とお話ししていると、会社として保険に加入していたり、退職金制度を設けていたりするにもかかわらず、従業員には詳しい内容を説明していないケースがあります。代表者や経理担当者は制度の存在を知っていても、対象となる従業員本人が、自分にどのような保障があるのか、退職時にどのような給付があるのかを理解していないのです。
これでは、会社が費用を負担して制度を準備していても、その思いが伝わりません。
法人保険を福利厚生に活用するという考え方
従業員の退職金、死亡退職金、万一の場合の保障を準備する方法の一つとして、法人保険を活用する方法があります。法人保険のなかには、従業員に万一のことがあった際の保障を確保しながら、将来の退職金などに充てる資金を計画的に準備できるものがあります。会社が毎年または毎月保険料を支払うことで、保障を確保しつつ、将来の支出に備えていくという考え方です。
現預金だけで退職金の準備をしようとすると、会社の口座に資金が残っているため、日々の運転資金や設備投資など、別の用途に使ってしまうことがあります。将来の退職金用として明確に分けて準備することが難しい場合もあります。その点、保険を活用することで、一定の規律を持って資金を準備しやすくなる場合があります。
また、積立を始めた直後に従業員に万一のことがあった場合、現預金での積立では十分な資金が準備できていない可能性がありますが、保険であれば契約内容に応じた保障を確保できます。
また、保険商品を先に選び、その商品に会社の制度を合わせるのではなく、まず会社としてどのような福利厚生制度をつくりたいのかを考えることが大切です。
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