第5回:「有事の円買い」か「有事のドル買い」か
世界情勢が緊迫すると、かつてのマーケットは「有事の円買い」という言葉で溢れかえりました。地政学リスクが高まると安全な日本円に資金を避難させるというのがマーケットの共通認識でした。私が野村證券の支店に勤務しリテール営業を行っていた2018年頃は、北朝鮮によるミサイルの発射などによって地政学リスクが高まるタイミングが多く、瞬間的に円高に振れることがしばしばあったことを記憶しています。しかし、2026年に入ってからの足元のアメリカとイランの軍事衝突においては、市場は「円安・ドル高」の展開となっており、「円売り・ドル買い」の様相を呈しています。日経新聞の記事においても、「有事のドル買い」という見出しを度々見かけ、少し違和感を感じていました。
「有事の円買い」とはなんだったのか
なぜ、日本円は安全資産としての地位を失いつつあるのでしょうか。かつて円が安全だと思われていた背景には、次のような要因があったのではないかと思います。第一に日本は長年、世界最大の海外に資産を多く持っている国、要するに世界最大の債権国であるということが挙げられます。世界中で様々な危機が発生すると、日本の投資家がリスクを避けるために海外資産を売却し、日本円を買い戻す動きが活発化したと考えられます。すなわち、リスクを背景にして日本に還流する資金が円高を支えていたと言えます。また、日本は当時は物価が安定し、貿易による経常黒字が安定していたため、円は価値が減りにくい通貨であるとして信頼されていました。
「有事のドル買い」へ構造変化した3つの理由
2020年以降、「有事の円買い」が起きにくくなっている世界的な経済構造の変化には、どのような要因があるのでしょうか。
1. 地政学リスクの高まりによるエネルギー高と円売り
貿易黒字が続いていた2000年代から推移し、現代の日本は貿易赤字であると同時に、様々なエネルギーを輸入に頼っています。そのため、 有事で資源が高騰しエネルギーの輸入コストが高まると、日本はエネルギーの輸入代金としてさらに多くの円売りと外貨買いが必要になります。つまり、地政学リスクが高まるほど、実需面で円安圧力がかかる構造になっています。

2. レパトリエーションの減少
かつての円買いを支えていたのは、日本の企業が海外で稼いだお金を日本に戻す動き、「レパトリエーション」でした。しかし現在では、多くの日本企業は稼いだ利益を海外で再投資しており、有事だからといってわざわざ円に戻すメリットが薄れています。
3. ドルの「圧倒的流動性」への回帰
世界中どこでも使えるお金として、ドルの流動性に対する魅力は有事の際に高まる傾向があります。地政学リスクが高まった際、その軍事力と基軸通貨としての流動性が資金の避難先として、ドル買いを加速させていると考えられます。また、円と比較したときのその信用力でも、足元では絶対的な地位を占めていると言えるでしょう。
「有事の円安」をチャンスに変えるには
有事の際に「円安」が進むということは、私たちが日本国内で円だけを持って過ごしていても、世界全体から見れば資産価値が目減りしていることを意味しています。海外からの輸入品へ年々高騰し、ガソリン代や電気代、食料品も値上がりが続いているのは、円が持つ購買力の低下が大きな要因のひとつであると言えるでしょう。「円だけを持つ」ということは、世界水準から見るとリスクになっていると言えるのではないでしょうか。
資産を守るための「通貨の分散」
「日本に住んでいるから円だけ持っていれば安心」という考え方は、少しずつアップデートしていく必要があるのかもしれません。特に、地政学リスクが高まった有事の際にドルが選ばれるのであれば、私たちはあらかじめ、資産の一部を外貨建てで持っておく「通貨の分散」を行っておくべきであると言えるのでないでしょうか。ドルを中心とした外貨を保有する手段として、NISAを活用したグローバル投資や債券運用、それに加えて外貨建て保険や変額保険の活用といった方法が考えられます。弊社でも、様々な外貨建て保険や変額保険のご案内が可能ですので、お悩みの際にはぜひお声掛けください。XのDMからでもお待ちしております。
ヒルズ&パートナーズ株式会社 取締役 岡村 雄太

